登記されているだけでも全国に77,000ヶ所あると言われるお寺。その中でも「オーベルジュ体験ができるお寺」としていま人気のお寺があります。
群馬県高崎市に佇む瀧澤禅寺の第35代目 秋月ご住職。強面な表情の裏に隠れたユーモアたっぷりの魅力を探れば、瀧澤禅寺の人気に納得できるはずです。

住職になるために、PTA会長の経験も必要

今日はよろしくお願いします。先ずはご住職の自己紹介ご紹介していただいてもよろしいでしょうか。

秋月 典道(あきづき てんどう)です。現在48歳で、瀧澤禅寺35代目住職を務めています。
実家が瀧澤禅寺です。もともと料理人を志していたこともあり、料理の修行をしていたこともあります。高校生で進路選択のときに「大学行かないで、永平寺へいきなさい!」と父親(先代住職)に言われまして。私自身はどうしても大学へ進学したかったので、仕送りなしを条件に上京し、都内の日本料理屋さんに住み込みで働きながら大学に通いました。当時取得した調理師免許は、食事処 紫雲(しうん)にも役立っていますね。

それから永平寺での2年間の修行を経たあとは、現在まで龍澤禅寺で25年ほど勤めています。趣味は、一人の時間が好きなので時間ができると、スクーターで遠出するのは好きです。

ご実家のお寺を継いだ形ですね。

そうですね。瀧澤寺は、今から約1,000年前に天台宗のお寺として建てられました。その後いくつもの戦を経て、応仁の乱(1467)の前には無住寺(お寺に住職が居ないこと)となっています。
その後、今から約600年前に曹洞宗の住職が就き、いまの「龍澤禅寺」となり現在に続きます天台宗時代も含めると、私は57代目住職になりますね。ちなみに「龍澤禅寺」になってからも3度の火事を経験しています(最後に起きた火事は300年前)。

非常に歴史深いですね。いまのお寺を継がれたのはいつごろですか。

平成4年(1992)、四半世紀前です。ただ、住職になってからはまだ1年ちょっとですね。

ご住職になるまでに24年も…! 住職になるには、何か明確な基準があるのでしょうか。

お寺によっても異なるため、明確な基準はありません。ただ、瀧澤禅寺は格式高いお寺ですので住職になった時点で、普通のお坊さんが着れない色の衣の着用が認められます。
その分、住職になるために先代住職に認められる “経歴” が必要となります。お寺でのお勤めはもちろんですが、認められるにはPTA会長など地域での社会経験も含まれますね。

学校のPTA会長!地域に根ざした歴史深いお寺だからこそ、お寺のことだけをしていればいいわけではないのですね。

特に瀧澤禅寺のように郊外にあるお寺の檀家さんは「直系の住職にお寺を守って欲しい」という想いが人一倍強いです。そのため、私たちお寺側もしっかり地域に根ざして勤めないといけないという意識をより強く持てるのだと思います。

なにか事業性のあるものを。ネットで偶然見つけた座禅する外国人の女性の写真

ところで、我々お寺ステイ出会ったきっかけは、秋月ご住職が 問い合わせフォーム 経由で応援メッセージをいただいたのがきっかけでしたよね。その当時、なにかきっかけがあったのですか?

実はそのころ、お寺の後継者問題が議題として挙がっていました。私はそこで理事をしていますが、打開策として会議で上がった意見が「お布施の価格を統一する」「お釈迦様の生誕祭を盛大に祝う」……など、あまり良いアイディアがあげられなかったんです。

また、私自身過去に事業をいくつか挑戦したことがあったり、現在も紫雲(しうん)という料亭をお寺の隣に構えています。それなりに事業モデルも組み立てながら回していたこともあり、何か事業性のあるものをした方が良いのではないだろうか?と考えていました。

その会議で提案できるものはないだろうか?とネットで探していた時にたまたま見つけたのが「お寺ステイ」だったんです。

ネットサーフィンしていて偶然見つけたとは(笑)

お寺ステイHPのトップ画面で、外国人の女性が座禅している写真をみて「先見の明がある」と感じました。だから「ぜひ頑張ってください」という気持ちを込めて軽くご連絡してみたんです。その後メールでお話させていただき、代表の佐藤さんがお寺に訪ねてこられ、気づいたら民泊のオヤジになっていました(笑)

民泊 ユニーク 事例 田舎 事例 お寺 インバウンド 人気 群馬 高崎実際に秋月ご住職からいただいたメッセージ。ここから始まったやりとりをきっかけに今に至る

良い、と思っても実際に連絡すると言うのはなかなかできることではないと思います。

お寺ステイとのつながりは「縁(えにし)」だと思っています。仏教では人間の第六感のような、未だ解明されていない物事を、色即是空の「空(くう)」という言葉で表します。

また、禅のことばでもある「積善百福」の言う通り、小さなことを積み重ねているといずれ大きなものになって返ってくると思っています。

ところで、民泊を開始してさっそく盛況となっていますが、外国人観光客が来ていることについて、檀家さんから懐疑的な意見はないのでしょうか。

私のところは無いですね。ニュースなどでも外国人観光客の増加、積極的にインバウンド観光政策を推し進めていることを見聞きしている影響は大きいと思います。むしろ檀家さんたちはとても協力的です。檀家さんから新しい提案を受けたり、ポジティブな方向に進んでいることを感じています。

幸せになるために変わる必要はない。座禅を通して “気づいて” 欲しい

民泊を始め外国人や若い人がお寺へ尋ねるようになって、何か変化はありますか。

もちろんお寺に新しい人が来るようになって活気付いたという変化はあります。でも、民泊をしてはいる以上に、来てくれた人へは〈禅〉を行っていると思っています。

お寺に来ることで〈禅〉の心を知ることができるということでしょうか。

はい、実際に来るきっかけは民泊でも、その流れで〈禅〉を伝えられたら良いと思っています。〈禅〉が目的だという人は少数だと思いますし、翌朝の朝の修行をお誘いすると多くの方が参加してくださいます。

また、私自身「幸せになるために、何かを変える必要はない」と考えています。だからこそ、座禅をしたとしても、変わる必要はありません。その代わり〈禅〉を通じて、“気づいて” 欲しいですね。座禅時の鳥の声や寒さ、でも気づくものは何でも良いんです。

他にも宿泊者が関心を持つことはありますか。

瀧澤禅寺には昔の侍が実際に戦場で使用していた甲冑などもあり、関心を持つ外国人は多いです。文化的価値の高いものですので、先代の代まではあまり公開していなかったのですが、私はどんどん見てもらいたい

武士たちが持っていた「負けて生きるは恥」という日本のスピリッツを知ってもらいたいですし、たとえ負けたとしても誇りを忘れなければいいのだ、と言うことを言い伝えたいですね。きっと、見て知ってもらうことが、結果的に彼らの供養になるとも思っています。

それ以外にも寺内には他にも様々な文化財がありますが、「ノミしかない時代にこんな素晴らしい〈龍〉を彫った」という事実を知って欲しいですね。

民泊を始める前は「こんな不便な土地に人は来るのだろうか」と心配でしたが、今は「不便だからこそできることがある」と思っています。

群馬県高崎にある瀧澤禅寺に寄せられたairbnbレビュー 群馬県高崎にある瀧澤禅寺に寄せられたairbnbレビュー宿泊客からの実際のレビュー。世界各国から宿泊客が訪れる

民泊以外のおもてなしを気負わずに自然にされているのには、本当に頭が下がります。

佐藤(真衣・弊社シェア社長)さんは、「ご住職の対応が良いからゲストたちにとても好評なんです!」と言ってくれますが、自分としては当たり前のことをしているに過ぎません。

これは自分の経験をもってして言えることですが、儲けようとはじめたことは大抵うまくいかない。一方、心で動いて始めたものごとの方が、気づいたら上手くいっています。不思議ですよね。

そういえば、お寺ステイとのコラボを始めてから、48年生きてきて初めて味わう感覚があるんですよ。

初めて味わう感覚…と、いいますと?

「忙しいけど楽しい」感覚です。

これまで法事や紫雲(しうん)にたくさんの方々が来てくださっていますが、その方たちは本心を言うことがあまりないんですよね。でも、泊まりに来る外国人は素直な感想をその場で言ってくれる。「すぐ評価を受け取れる」というのは新鮮で嬉しいです。出したテストがすぐ返ってくるような感覚ですね。

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多くのお寺の「なんとなく」を解消すべく、瀧澤禅寺をファーストペンギンに

今後このような形の事業に興味のあるお寺は、増えてくると思いますか?

すでに興味のあるお寺は多いはずです。ただ皆さん共通して「何と無く不安」と感じていると思います。だからこそ、瀧澤禅寺がしっかりとモデルを確立していきたいという責任感も感じています。

なにか新しいことをするのであれば、“◯千万かけて永代供養堂の設立にお金をかける” よりも、民泊を行う方が絶対に良いです。民泊を始めるにあたって、そのフォロー体制ができれば、より始めやすいですよね。瀧澤禅寺は食事処の紫雲がありますが、例えば夕食は隣のお寺でしてもらう、とか。

新しい人がお寺に来てくれる、ということで長い目でみたときにお寺の貢献できるはずですよね。

柔軟な考えをもつ若い住職にこそ始めて欲しいですね。お寺として独自の収入源を持つことができれば、お寺の収入が増え、お寺のためになります。お寺が栄えることは、檀家さんが喜んでくれることであるはずです。それが結局お寺が「媚びる」必要がなくなることにも繋がります。

真っ当な形でお寺を良くするために、お寺の収入を増やす。だって管理人ですから、お坊さんは。

今後、瀧澤禅寺をどのような場所にしていきたいと考えていますか?

人生にオンとオフがあるように、温故知新し続けたいです。新しいものと古いものとの共生の叶う場所にしていきたいですね。

龍澤禅寺 / 紫雲(しうん)

住所:群馬県高崎市箕郷町白川1584
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今から約1,000年前、天台宗のお寺として建立。その後、戦や応仁の乱(1467)のころに無住寺(お寺に住職が居ないこと)に。その後、今から約600年前に曹洞宗の住職が就き、現在の「龍澤禅寺」に。そのため天台宗の時代も含めると、現 秋月住職は57代目住職となる。また「龍澤禅寺」になってからも3度の火事を経験している(最後に起きた火事は300年前の江戸時代)。